僕らは映画と旅に出る vol.12 【セッション】

数年前に騒がれていた映画「セッション」をDVDで観る。
「セッション」の物語は至ってシンプルで、音楽学校の鬼教師と、
ドラムに熱中する男の子の話だ。


まず、大学で映画学科に在籍していたハタチ前後を思い出した。
ろくに世間も知らず、仕送りで食っていたのに、
自主映画を作っていっぱしの監督を気取っていた。


卒業後に声をかけてもらい、初めてプロの現場に助監督として参加した。
監督きどりの薄っぺらなプライドは粉々に砕かれ、
肉体的にも精神的にもボコボコにされた
(給料は一ヶ月半で6万だった)。
その経験が悔しくて「とにかく映像の仕事で食えるようになろう」
ともがいた。29歳で東京を離れ福岡に移住する頃には、
テレビのディレクターとして飯が食えるようになっていた。


「セッション」では鬼教師との紆余曲折を経て、
男の子はドラムに回帰する。
29歳で九州に渡った僕は、慣れない地で飯を食うことや、
結婚生活に揉まれながら、気づけば37歳。
なぜか今、映画に回帰している。


夢だけで生きてた「監督きどり時代」夢を捨ててとにかく
プロになりたかった「ディレクター時代」が合わさって、
今ひとつになりつつあるのを感じる。
「映画で飯を食う」という楽しくも残酷な厳しい道である。


107分でこれまでの人生を振り返らせてくれた「セッション」は、
僕にとって忘れられない作品になった。